2016年御翼10月号その3

                                         

人種の壁と戦ってきた錦織 圭と専属コーチのマイケル・チャン 

 スポーツ選手は、傲慢な者がいずれは淘汰されていくことを、体験上知っている。金メダルや名声を得たら、何をすべきか。更なる栄光ではなく、それによって起こる様々な出会いを、神の栄光を現わすために、神の愛を分け与え、人を助けるために用いるのだ。ビジネスにおいても、研究職においても、スポーツでも音楽でも、それは同じである。

 日本人プロテニス選手・錦織(にしこり) 圭(けい)は、これまでの獲得賞金が東洋人で最高額となっている。「欧米のスポーツ」とされてきたテニス界で東洋人が活躍することは、「人種差別」との戦いでもあり、特に東洋人軽視の風潮があった。世界で実力が認められてくると、試合では理由もなく大ブーイングを浴びる。若いころの錦織は、そのプレッシャーに押しつぶされ、大会序盤で格下相手に敗れることも少なくなかった。そんな錦織が差別に耐え続け、全米オープンで準優勝するまで強くなれたのは、二〇一三年の十二月から彼の専属コーチに就いたマイケル・チャンとの出会いがあったからである。
15歳でプロとなり、一九八九年の仏オープンで優勝したマイケル・チャンにとって、世界ナンバーワンになれたことよりも、その二年前に15歳でイエス・キリストを受け入れたことのほうが重大な出来事だったという。「名声、賞金を手にする前に、主を受け入れたことで、良い人生を築く基盤が与えられた」とチャンは言う。そのお陰で、道を踏み外さずに来られたのだ。チャン氏は、信仰と勝負は似ていると言う。 「トップ選手の間では、勝因の二割は身体面、八割は精神面と言われる。勝つと信じなければ絶対に勝てない。同じように、人生のさまざまな出来事は偶然ではなく、神がいると信じた時、その理由を理解できる」と。
 「なぜ自分は東洋人なのか。なぜ中国系の人種に生まれてきたのだろうか、神は自分を間違った場に置かれたのではないか」とチャン氏は思っていた。しかし、その理由も一九八九年、全仏オープンに出場しているときに分かった。試合期間中、天安門事件が起こり、民主化を求めていた学生たちに犠牲者が出た。世界中の中国人たちが笑顔を失っていたときに、少しでも希望を与えられるようにと、主が中国人テニス選手として遣わしていただき、勝たせてくださったのだ。 
 チャン氏が最も好きな聖書の箇所は、「神を愛する人々、すなわち、神のご計画に従って召された人々のためには、神がすべてのことを働かせて益としてくださることを、私たちは知っています」(ローマ人への手紙八章二十八節)である。「神はすべての人々の人生に目的を与えている。人々がそれを知ることを求めている」とチャン氏は力強く語る。

 

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